奥多摩ノート
奥多摩の空き家バンクと不動産会社、どっちに頼む? 売る・貸す・買うで変わる使い分け
奥多摩で家を売りたい、貸したい、買いたい、借りたい。空家バンクとは何なのか?奥多摩町では「空家バンク」と民間の不動産会社、どちらに相談すればいいのか。奥多摩不動産案内所が公表データを16年分集計し、売主・貸主・買主それぞれの立場から整理しました。
その前に、少しだけ婚活の話を
婚活に、自治体がやっているものと、民間の結婚相談所やマッチングサイトがあるのをご存じでしょうか。
自治体のほうは、たいてい費用が安い。ただ、根っこにあるのは「うちの町の人口を増やしたい」という願いです。ですので登録は、住民・もしくは将来住民になってくれそうな若い世代に限定、登録してもらって出会いの機会をつくること、つまり開催する事に力が注がれます。
いっぽう民間は、成立しなければ商売になりません。広く様々な人に参加して貰うために集客をし、プロフィールの写真をどう撮るか、初回はどこで会うのがいいか、会話が途切れたらどう助け船を出すか。とにかく「まとめるための工夫」に必死になります。
どちらが良い悪いではありません。目的が違えば、力を入れる場所も自然と変わってくる。それだけの話です。
奥多摩の空き家探しも、実によく似た構図をしています。
そもそも「空き家バンク」は、全国どこも同じではありません
空き家バンクは、全国共通の法律でつくられた制度ではありません。それぞれの自治体が独自の要綱で運営しているので、中身は町ごとにまったく違います。他の市町村の体験談や制度、まとめ記事を読んで「空き家バンクとはこういうもの」と思い込むと、奥多摩ではあてが外れます。
そして奥多摩町は、全国の中でもかなり踏み込んだことをしている町です。
通常の空家バンクに加えて、若者世帯に特化した「若者用空家バンク」、無償で譲りたい人と受け取りたい人をつなぐ「0円空家バンク」。この三本立てに、登録した所有者への交付金、移住して働く人への支援金、町営の若者定住住宅まで組み合わせています。テレビや雑誌で「定住するとタダで家がもらえる町」として紹介されるのも、この手厚さゆえです。
背景にあるのは、はっきりしています。若い世代に奥多摩に移住してもらいたい。空き家対策と移住定住政策が、ほとんど一体になっているのです。
だからこの記事は、あくまで奥多摩町に限った話として読んでください。
結論から言うと、こうなります
| あなたの立場 | 状況 | 向いているのは |
|---|---|---|
| 売りたい | それなりに値がつきそう | 民間の不動産会社 |
| 売りたい | 遠方に住んでいて現地に通えない | 民間の不動産会社 |
| 売りたい | 値はつきにくいが、近くに住んでいる | 空家バンクに売り手登録を。解体や寄付も視野に |
| 貸したい | 自分で管理できない | 民間の不動産会社 |
| 貸したい | 近所に住んでいて自分で動ける | 空家バンクも選択肢 |
| 買いたい | 年齢・世帯の条件に当てはまる | 空家バンクにも買い手登録を |
| 買いたい | 条件から外れる | 民間の不動産会社に相談 |
理由を、順に見ていきます。
空家バンクは、実は「不動産屋さん」ではありません
奥多摩町の空家バンクは、こういう流れで動いています。
町が空き家と買い手を募集し、マッチングしそうだったら奥多摩総合開発株式会社へつなぐ。同社が売主と買主を引き合わせる。そこから先の条件交渉は、当事者間(奥多摩総合開発株式会社が媒介)で進めていく。話がまとまったら、同社が重要事項説明と契約書を作成し、正規の仲介手数料を受け取る。
ここで、ひとつ押さえておきたいことがあります。空家バンクの物件を扱っているのは、町が出資する第三セクター・奥多摩総合開発株式会社の一社だけです。奥多摩町内には他にも不動産会社がありますが、空家バンクに登録された物件については、この一社が窓口になります。
そして、多くの方が驚かれるのがここです。
物件管理・価格交渉も自分でやる必要があります。しかし、行政の制度であっても仲介手数料は無料ではありません。
整理すると、こうなります。
- あるのは、マッチングの仕組みと、契約の事務手続き
- ないのは、売るための工夫と、貸したあとの管理
町の不動産屋さんなら当たり前についてくるサービスが、そもそも役割の外側にある。そこは元々の担当ではない、ということなのです。
冒頭の婚活の話を思い出してください。出会いの場までは用意する。でも、まとめるための工夫までは求められていない。構図はまったく同じです。
なぜ、空家バンクの物件は大手不動産ポータルサイトであまり見かけないのか
「空き家バンクに載せておけば、そのうち誰か見つけてくれるだろう」
そう考えている所有者の方に、少しだけ現実的な話をします。
まず、家を探している人の行動を思い浮かべてください。多くの人は「賃貸物件」か「売買物件」を探します。わざわざ「空き家」で検索する人は、そう多くありません。入口からして、人通りの少ない道なのです。
さらに構図があります。空家バンクの物件は第三セクターが窓口を一手に握っているため、町の民間不動産業者にとっては、積極的に売り込む理由がありません。紹介する動機がなければ、大手のポータルサイトに載ることもほとんどありません。(アットホームは例外的に掲載しています)。
つまり、載っている場所が限られているうえに、そこを見に来る人も限られている。二重に人目につきにくいのです。
16年分のデータが語っていること
奥多摩町が公表している資料をもとに、奥多摩不動産案内所で平成22年度から令和7年度までの16年分を集計してみました。
この16年間で、「奥多摩で家を探したい」と利用登録した人は、延べ1,097人。それに対して、実際に売買や賃貸が成立したのは96件でした。登録した人のうち、話がまとまったのはおよそ11人に1人という計算になります。
グラフの上の段を見ると、令和2年度あたりで登録者がぐっと跳ね上がっているのがわかります。コロナ禍で地方移住に注目が集まった時期ですね。ところが下の段、成約件数のほうは、その前後で大きく数字が伸びているわけではありません。
入口には人が集まった。けれど、出口の広さは変わらなかった。
理由のひとつは、物件が足りていないことです。町の「空家等対策計画(令和8年4月改正版)」でも、利用申請が増えた結果として供給が追いついていない状況が示されています。当所の集計では、直近6年間で登録された物件は74件。対して利用登録者は723人。1件あたり、およそ10人が待っている格好です。
そしてもうひとつは、やはり婚活の話に戻ります。引き合わせるところまでが役割で、まとめるための工夫はその先にある。人がたくさん集まっても「もっと良い人/運命の人がいるのではないか?」という理想を追求するだけで現実とのすり合わせをしないと成立数は増えないのです。
売りたい人へ
少しでも値がつきそうなら、民間に相談を
早く、高く売る。そのために動く理由があるのは、民間の不動産会社のほうです。買い手の母数も違います。空家バンクの買い手は利用登録をした人に限られますが、民間ならセカンドハウス需要などにも制限がありません。
遠方にお住まいの方は、そもそも使いにくい
これは意外と知られていない、けれど決定的な話です。
物件の管理はしてくれない。最大掲載年数は2年間(再掲載は可能)、そして、成立するのは11人に1人。現実的でしょうか。
「遠方に住んでいて手が回らないから、町の制度に任せたい」。そういう動機で空家バンクを選ぼうとしている方こそ、いちばん向いていない、というのが正直なところです。
値がつきにくい物件こそ、置いておくのが高くつきます
いっぽう、正直なところ買い手を選ぶような物件もあります。そういう場合は、考え方を変えたほうがいい。
近年は、管理が行き届いていないと判断された空き家について、土地の固定資産税の優遇が外れることがある仕組みになりました。持っているだけでお金が出ていく方向に、じわじわと変わってきているのです。
奥多摩町には、空家バンクに登録した所有者への交付金があります。登録するだけで対象になるうえ、若者用のほうが手厚く、売買より賃貸のほうが高く設定されているのが特徴です。公表されている案内では、通常の空家バンク登録で売買が上限10万円・賃貸が上限25万円、若者用なら売買が上限50万円・賃貸が上限75万円。建物を解体して土地を登録する場合にも枠が用意されています。
金額や条件は改定されることがあるので、必ず町にご確認ください。ただ、売れなくても、登録という行為そのものに支援が出る設計になっている。これは知っておいて損のない話です。
売却が難しいなら、解体して土地として出す、町への寄付を相談してみる。そういう出口も含めて考えてみてください。
空家バンクと不動産会社、両方に頼めますか?
奥多摩町空家バンク設置要綱では「この要綱は、空家バンク以外による空家等の取引を妨げるものではない」、とされています。
ただ、実務の現場では「空き家バンクと民間業者との併用はできないようだ」という話も聞かれます。運用や解釈に幅があるのかもしれません。契約の形態によって変わる可能性があるりますので、依頼する前に必ず確認してください、というのが現時点での正直なお答えです。
貸したい人へ:16年で21件、という数字
グラフには表れにくいのですが、当所の集計では、空家バンクの賃貸登録は16年間で21件、成約は18件でした。ここ数年は年に1〜3件という状況です。
数字が示しているとおり、貸す制度としてはあまり動いていません。理由ははっきりしています。
空家バンクは、貸主と借主を引き合わせるだけ。家賃保証会社も入りません。給湯器が壊れた、水が出ない、草が伸びてきた。そうした連絡は、すべて直接貸し手のところに届きます。
冬の凍結、獣害、草刈り、台風のあとの見回り。奥多摩の管理は、都心のアパートとは勝手が違います。現地に住んでいない方が自力で回すのは、かなり厳しいでしょう。実際、空家バンクで貸し始めたあとに民間へ切り替えた、というお話も耳にします。
貸すことを考えているなら、集金や入居者対応まで引き受けてくれる相手を、最初から探しておくことをおすすめします。
買いたい人へ
まず、申し込みには条件があります
これは制度の性格をよく表しています。
空家バンクは、奥多摩への定住——とくに若い世代の定住を進めるための施策です。ですから申し込みには、年齢や世帯構成の条件があります。
若者用空家バンクの場合、40歳以下の夫婦、50歳以下の方で高校生以下の子どもがいる世帯等。そのうえで、定住することが前提です。
「安い家を探すサイト」ではなく、地域に関わる意思のある人を選びながらつなぐ制度。そう理解しておくと、あとでがっかりせずに済みます。
順番待ちの列は、思ったより長い
先ほどのデータのとおりです。希望に合う物件が出たとしても、同じ条件で待っている人がすでに何人もいる、という前提で構えておいたほうがいいでしょう。
なお、2026年7月時点で奥多摩不動産案内所が確認したところ、空家バンクに掲載されていた物件は19件。うち賃貸は1件のみで、いくつかはすでに交渉中の表示でした。売買価格は130万円から1,700万円ほどの幅があり、掲載価格の中央値は430万円前後です。
登録して待つ、という姿勢だけでは、なかなか順番が回ってこないかもしれません。
0円・激安物件は、必ず総額で考えてください
タダで家がもらえる。たしかに魅力的な響きです。
ただし「0円空家バンク」は、2026年8月現在、ゼロ円空き家バンクには登録物件がない状態です。そして仮に出てきたとしても、契約や登記にかかる費用は受け取る側の負担になります。
さらに、修繕費を入れるとどうでしょうか。奥多摩には、崖地条例のように工事費が大きく変わる地域特有の決まりごともあります。本下水の工事が必要になる事も多いです。本体価格の安さだけで比べると、あとで足元をすくわれます。
なお0円空家バンクは、年齢や定住の要件に当てはまらない方、アトリエや倉庫、別荘用途を探している方にも開かれています。条件から外れた人の受け皿としては、覚えておく価値があります。
条件から外れても、諦めなくていい
年齢や世帯の条件に当てはまらない。それだけで奥多摩を諦めてしまうのは、もったいない話です。
空家バンクに載っていない物件も、町には存在します。まずは民間の不動産会社に相談してみてください。町内の不動産会社については相談先の選び方にまとめています。
よくある質問
空家バンクなら仲介手数料はかからない?
かかります。契約手続きを担う奥多摩総合開発株式会社は宅地建物取引業の免許を持つ事業者で、正規の仲介手数料が発生します。
内見の案内はしてもらえる?
0円空家バンクは、自分で現地を確認してから申し込むことが条件とされています。
貸したあとの管理は誰がやる?
原則としてオーナーご自身です。修理の連絡も直接届きます。
移住しなくても使える?
通常の空家バンクは定住や定期滞在が前提です。用途を限定されずに探したい場合は、0円空家バンクや民間市場を検討してください。
登録すれば、すぐ物件を紹介してもらえる?
当所の集計では、利用登録に対して成約に至るのは1割前後です。空き家バンクに関しては物件が不足しているため、登録から時間がかかることを見込んでおいてください。
空家バンクと不動産会社、両方に頼める?
制度上は妨げないとされていますが、媒介契約の形態によって扱いが変わるようです。依頼前の確認をおすすめします。
使い分けは、是々非々で
町の制度がだめで、民間が正しい。そんな単純な話ではありません。
安く進められる場面もあれば、支援金が受け取れる場面もある。若い世帯にとっては、奥多摩町の手厚さは本当に貴重です。ただ、引き合わせと契約事務が役割であって、売る工夫と管理はそこに含まれていない。この一点さえ押さえておけば、判断を間違えることはありません。
婚活と同じです。どちらか一方を選ぶ必要はなく、自分の状況に合うほうを、その都度選べばいい。
気になる物件が見つかったら
空家バンクに載っている物件でも、民間で見つけた物件でも、契約の前に知っておきたいことがあります。土砂災害の警戒区域なのか、自然公園法(奥多摩町の全域が秩父多摩甲斐国立公園です。公園法による規制が特別~普通地区により異なります)、道路に接しているのか(奥多摩町は都市計画区域外なので道路付けは不要ですが実用上不利になります)。。
奥多摩不動産案内所では、住所を入れるだけで公開情報を整理する無料AI診断をご用意しています。現地で何を見るか、誰に何を聞くか。その準備にお使いください。